今日、「この電子回路の性能が思ったように出ないので、ちょと調べてもらえませんか?」という仕事が舞い込みました。
で、その回路に使われているIC全ての仕様書を各社のWEBサイトから取り寄せ、一通り目を通したあと、「性能が出ていない」回路を眺めてみました。
回路図そのものは、ICの仕様書に書かれてある、「例題」と全く同じでした。でも、なぜか性能が出ていません。色々調べると、プリント基板に問題が発見されました。これは回路図に書くことは結構難しいのですが、実はこの「プリント基板」の設計こそが、性能を決定する最重要ポイントだったのです。
再度、使われているICの仕様書を見直したところ、「こういうプリント基板設計をしたときに、この仕様書に書かれている仕様を満足します」みたいなことが書いてあって、「プリント基板」の設計図もちゃんと書いてありました。
つまり、この回路及び「プリント基板」を設計したエンジニアは、「回路図」そのものは同じ物を使ったけれど、「プリント基板」までは「同じ物」を使わなかったのです。
性能が出ないのは当然です。
今回検討を依頼された電子回路は、プリント基板の設計が性能を左右するものでした。というか、プリント基板は色々な制約があって、思った通りの設計ができない。だから回路を工夫してプリント基板の制約が合ったとしても、ICの性能が最大限発揮できる回路設計をした、というのが本当の所です。
この回路を設計した日本のエンジニアはそこまで見抜けなかったということですね。
でもこれは非常に複雑な気持ちになりました。
今回検討を依頼された電子回路を使った製品は、市場はとても限られてますが、結構なお値段で売られています。一見「正常に動いている」ので、製品として流通しているのだと思うのですが、私の見たところ、そのICの性能が良いからちゃんと動いているだけであって、まさに「たまたま」動いているレベルです。
その製品の性能を決定する「心臓部」であるICは海外のメーカーが作ったものです。そのICを回路組み込むための情報も、プリント基板設計に関する情報も、全て仕様書に書かれています。ですが日本のエンジニアはそのICの仕様を全てを理解できず、せっかくの高性能なICを使い切っていないというのが現実のようです。
私も15年前、全く同じ失敗をして、上司にこっぴどく叱られたので、あまり人の悪口は言いたくありません。でも、その時の上司は、私の設計したものを「製品」として世の中に出すことを許してくれませんでした。上司が納得するまで、何度もやり直しをさせられました。その時は「なんで俺だけいじめられるんや?」とも思いましたが、今となってはとても感謝しています。
ソニーのバッテリ・リコールの問題もそうですが、何故か物事の本質は置き去りにされ、「とりあえず動いたからいいや」見たいな風潮が今の日本の電子回路業界にあるようで、とても寂しいというか、複雑な気持ちです。

コメント (9)
良く聞く話ですね。
昨日、学生の友人より夜電話。振り返ってみると電子工学を専攻した当時の友人たちで、エレクトロニクスに従事している人間は私一人、そんな話を長々しました。
結局私はエレクトロニクスが面白いからこの仕事を選んだ、と云う非常に単純な動機で続けています。途中で、営業などの選択肢もあり得たのですが、結局エレクトロニクス。
学生時の友人たちも最初はエレクトロニクスに従事したのですが、途中で企画営業などに変わりました。
どちらの人生が良いかは分かりません。結局の所、学生時のの友人たちが集まった時の結論は、私が一番エレクトロニクスを好きだった、と云うことです。
おしぞうさんもご存じの通り現代の世の中は、エレクトロニクスのエンジニアをそれほど必要としない、あるいは優遇しない時代です。会社で命令されれて否応なく仕事をしていると、やがて一人の人間として志も夢も興味も失うことは責められないことです。
夢や興味を話せる人間が周囲にいると環境はずいぶんと違ったモノになるでしょう。そんな会社にしたいといつも思います。
エレクトロニクスにお従事する人間も年々減少しています。
投稿者: 狩野ラワジフ | 2006年10月21日 16:11
日時: 2006年10月21日 16:11
狩野さん、いつも絶妙のコメントありがとうございます。
>私が一番エレクトロニクスを好きだった
大げさに言えば、人生の本質は、「好き」という言葉に集約されるのでないかと思います。
「好き」、だから、がんばる。
「好き」、だから、一生懸命やる。
「好き」、だから、良い物を作りたい。
これは人間の根源的な欲求だと思います。誰にも止められないです。
でも、狩野さんが書かれたように、
>会社で命令されれて否応なく仕事をしていると、
>やがて一人の人間として志も夢も興味も失うことは責められないことです。
という世の中になってしまったのですね。とっても悲しいことですが。
これは、エレクトロニクス業界に限ったわけではなく、社会全体に当てはまるのではないでしょうか?
特に最近は世の中が流れるスピードが速く、結果をすぐに求められます。嫌々やっている仕事でも「とにかく結果を出せ」という号令の元に物事を強引に進めてゆくので、いわゆる「負の連鎖」が起きているのでしょう。
本当は、結果よりもその結果を出すまでの過程と、その過程の中で如何に物事の本質をつかもうと努力し、その一端でもつかめたか?が重要だと思います。物事の本質が理解出来ていれば、世の中の流れのスピードが上がったとしても、その流れの中で自分を見失わずにすむのではないか?と思います。
>夢や興味を話せる人間が周囲にいると環境はずいぶんと違ったモノになるでしょう。
同感です。私が子供の頃は、みんな夢や興味のあることを、自慢しあってましたね。両親や大人たちも、それを微笑ましくただじっと見守ってました。
最近は、全てとは言いませんが、大人が夢を語れなくなったので、子供も冷めちゃってますね。「そんなことは出来るわけがない」の一言で片づけられてしまいます。
それに過度に失敗を許さない社会になっているような気がします。人は「夢」の実現のために色々やって失敗をするわけですが、たった一度の失敗で「落伍者」の烙印を「社会」が押してしまう・・・窮屈な社会になっちゃいましたね。
お口直しに、Steve Jobsの「Stay Hungry, Stay Foolish」の映像(フルバーション)のリンクを貼り付けておきます。
http://www.youtube.com/watch?v=D1R-jKKp3NA
日本語訳は読まれたと聞いていますので、より味わえるのではないか、と思います。
投稿者: おじぞう | 2006年10月21日 18:05
日時: 2006年10月21日 18:05
>エレクトロニクス業界に限ったわけではなく、社会全体に当てはまるのではないでしょうか?
いえいえ、仕事も交友関係もエレクトロニクス中心なので、そのようにお感じになると、思われます。先日、何度の会っている野村證券の人と久しぶりにゆっくり話しました。やる気満々というかハイテンション。
誤解を恐れずに書きますと近年の日本は、「金もうけ」だけが会社、社会の価値基準になってしまったようです。ですから、金儲けと関係のない文化的な部分はひどく衰退しております。
一例。全国の美術館で所有する美術品の修理をするお金が不足しています。そのため、閉館に追い込まれる地方の美術館が増えております。
もう一つ例。介護士の国家資格があって施設で働いても、生活するのにやっとの状況。故に、介護の世界では辞めていく人が多く、大変な人手不足。さらに福祉を学ぶ学校は軒並み定員割れ。
「すきだ」「使命感」だけで職業にするには、現状はあまりにも厳ししい現状。しかし、定見、節操なく「金もうけ」に走る会社や仕事は、やる気、又は社会的上昇志向が強い人が多いようです・
投稿者: 狩野ラワジフ | 2006年10月21日 20:09
日時: 2006年10月21日 20:09
狩野さん、コメントありがとうございます。
ちょっと意図が上手く伝わらなかったかもしれません。基本的に私も、狩野さんが指摘された、
>「金もうけ」だけが会社、社会の価値基準になってしまったようです。
は私も同感です。
そのあおりを受けて各地の美術館が閉鎖に追い込まれているという話しは、確か新聞で読んだ記憶がありますし、介護の現場も「好き」で選んだはずなのに、食べるのに精一杯ということも何かの本で読んだ記憶があります。
ですから、
>「すきだ」「使命感」だけで職業にするには、現状はあまりにも厳ししい現状。
は、狩野さんご存じのように私自身が過去に経験をして辛い思いをしたので、よく分かっているつもりです。
ですから、「夢」を語ることもなく、ただ「お金儲け」が目的になってしまった社会は、あまりにも寂しいな、と思うわけです。
「お金を儲ける」ことは悪では無いと思っています。ただそれは「結果」であって、「目的」ではないと思います。
理想論をぶって、と言われるかも知れませんが、最近の若い人たちが引きこもりになったり、人生の目的を失って自殺してしまうのは、「パニック障害」という「ストレス性疾患」を持病としている人間としては、とても悲しく、何も出来ない自分の小ささにもどかしい思いをしています。
では、自分が出来ると事は何だろうと考えた末、ブログのような個人発信ができるメディアを使って、自分の内なる心の中の思いを「はき出す」事と、狩野さんのような方と、あるいみ有意義な意見交換をする、ということかな、と思っています。
ですから、最初に頂いたコメントの、
>夢や興味を話せる人間が周囲にいると環境はずいぶんと違ったモノになるでしょう。
>そんな会社にしたいといつも思います。
という言葉にはとても共感がもてたのです。
世の中への働きかけとしてはあまりにも小さな力かもしれませんが、何もしないよりは良いのかもしれない、と思っています。
投稿者: おじぞう | 2006年10月22日 11:33
日時: 2006年10月22日 11:33
>定見、節操なく「金もうけ」に走る会社
に勤めています。
営業の人たちはうまくいっている間は出世と高収入を意識してハイテンションですが、
ひとたび低迷しだすと仕事に意義を見出せないのでかなり落ち込むようです。
会社も平気で使い捨てにしようとしますし、
転職ともなれば手に職がないので
使い捨てにされるのを覚悟で契約社員などで営業を選ぶようです。
物作りに従事している人は良い物を作るという意義があるので
羨ましく思っていました
プリティ・ウーマンでリチャード・ギアが
「M&Aよりやっぱり物づくり!」という結論に達していましたしね。(*^O^*)
投稿者: KAWA | 2006年10月22日 23:08
日時: 2006年10月22日 23:08
こないだ電話でも話したけど、S社では製造会社に電子回路エンジニア的な人が多いです。
たとえば、
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1101/digital017.htm
AIB○も
イーエムシーエス株式会社 長野テックで、作ってもらいました。
中国でトラ技みたいな雑誌は売れてるんでしょうかね?
投稿者: いしー | 2006年11月02日 00:30
日時: 2006年11月02日 00:30
KAWAさん、いしーさん、コメントありがとうございました。
KAWAさん:
>ひとたび低迷しだすと仕事に意義を見出せないのでかなり落ち込むようです。
私も「仕事に意義を見いだせない」ことで落ち込むことはありました。でもそれは「会社」とか「組織」への不満であって、自分のやりたいことに対する「ぶれ」は無かったのかな、と思います。だから最終的に自営業者になりました。ただ、「金儲け」とは無縁になったかもです(^^;)
>物作りに従事している人は良い物を作るという意義
はい。それが私の「レーゾンデール」です(^^)/
だから「金儲け」とは「無縁」なのかもね・・・
いしーさん:
>S社では製造会社に電子回路エンジニア的な人が多いです。
うーん、これって良いのかな・・・
S社は我々理工系大学生にとってはあこがれのメーカーだったとおもいます。ですが、最近の色々なトラブルや、私の知り合いの、S社に勤めるエンジニア(その人はものすごくできる。ある意味天才)からの裏話を聞くと、「はぁ?」と思うことが多いです。
ただ、S社には、いしーさんを始めスーパーエンジニアが「まだ」沢山いるはずで、そのアイデアを具現化して量産に適した形で設計することはとても重要だと思います。そう考えると「イーエムシーエス株式会社」の存在意義は大きいなと思います。
>AIB○も
って、伏せ字になってないやん(^^;)
>中国でトラ技みたいな雑誌は売れてるんでしょうかね?
出版元の社長さんが上海だか「シンセン」に行ったとき、トラ技そのものじゃないけど、記事の一部が「無断」で中国語に翻訳され、堂々と売られていた、と言ってました。
投稿者: おじぞう | 2006年11月03日 12:21
日時: 2006年11月03日 12:21
KAWAさんとは別人のkawakawaです.
>せっかくの高性能なICを使い切っていないというのが現実のようです
私は,アプリケーション・ノートにも書かれていないような使い方を考えて,性能を出すのが好きだったりするのですが,現実,半導体メーカにいると,「本国が公開していない使い方はお客さんに言うな」と言われます.
本国のアプリケーション・エンジニアが出したデータはOKで,日本のアプリケーション・エンジニアが取ったデータは,「参考データ」です.何だかなぁ.
日本で元気の良い半導体メーカがあるなら良いのですが,某NJ○Cのような会社は非常に保守的です.
何を隠そう,私は学生時代に就職試験を受け,最終面接で役員から,「何で生物工学でうちを受けるの?」と,そればかり言われ,こちらの言い分は一切聞き入れられませんでした.
日本は,一度道を外れると,元のコースには戻してもらえない社会なんだと痛感したものです.
だから,この歳でFAEなんて道を選んでしまった私は,もう元の道には戻れないのでしょう(汗)
投稿者: kawakawa | 2006年11月07日 11:37
日時: 2006年11月07日 11:37
kawakawaさん、コメントありがとうございました。
最近お会いしてないですね。お忙しいのかな?
>私は,アプリケーション・ノートにも書かれていないような使い方を考えて,性能を出すのが好きだったりするのです
kawakawaさんらしい(^_^)
でも今回のケースは、そんなレベルの話ではなくて、このICの性能を「普通に」出すには、このプリント板設計でないと、だめでしょ!っていうのができて無くて、「こりゃイカン!」という話です。
さらに、このIC、とある規格に準拠させる為に作られていて、製品にしたときには、その規格にパスしなければならないのに、パスしてない、ってのが問題なんですね。
さすがに今流れてる製品はOKのようですが、初ロット(というか後でよく聞いてみると、試作品だったみたいですが・・・)はダメダメだったんですよ。
>何だかなぁ.
まま、そう腐らずに。しつこくやってれば、見てる人は見てますから、そのうち認めてくれると思いますよ。
私もL社にいた頃、
「こんなことやっとらんで、別のことやらんかい」
と当時の日本法人の社長に怒られながらも、ちょっと新しい事をやってたんですが、その会社を辞める直前、その事をやってたことを、アメリカとヨーロッパの現場営業マンからとても感謝されました。
その為か、私が「こそこそ」やってたことは、本社でプロジェクトとして正式に立ち上がり、製品として販売されて、それなりに売れてるみたいです。
>この歳でFAEなんて道を選んでしまった私は,もう元の道には戻れないのでしょう(汗)
そんなことは無いと思いますよ。私だって40歳で転職できたし、その後独立してまあなんとか食ってますから。
実は、今お仕事いただいている会社の社長さんが、アナログエンジニアが欲しいみたいですが、なかなかいい人がいなくて困ってるみたいです。
kawakawaさんも知ってる人です。
お給料の問題はあるかも知れませんが、やりがいもあると思いますよ。
どうです??
投稿者: おじぞう | 2006年11月10日 11:25
日時: 2006年11月10日 11:25